第1回 医療分野における訪日旅行客受入整備セミナー
- 対象
外国人患者の受け入れ態勢の整備に興味を持つ医療従事者・医療機関の担当者
- 開催日
平成29年4月18日(火) 15:00〜
- 開催場所
聖路加国際大学臨床学術センター国際会議場 日野原ホール
- 参加費用
無料 参加人数 : 79名 ※出演者含む
- その他
観光立国推進事業の中、訪日旅行客が増加し、2016年には過去最高の2400万人が日本を訪れた。また在留外国人の数も増加し、必然的に外国人患者が病院での受診する機会が増加している。官民一体となって受入体制の整備を行っているが言語対応、保健制度、未収金など多くの課題を抱えている。本セミナーでは「院内における言葉の壁を取り除く方法」をテーマにプロフェッショナルの方々にご登壇いただき、知見に満ちた情報を共有し、受入整備の更なる進捗と関係機関での情報共有を目的とした。
株式会社ブリックス主催の第1回医療分野における外国人患者受入整備セミナーを下記の通り開催いたしました。2020年を控え、加速する日本のインバウンド観光に伴う外国人患者の増加の受入状況や、課題をご講演者様にご紹介をいただき、皆さん熱心に耳を傾けていらっしゃいました。
【プログラム】
(1)セミナー開催にあたりご挨拶
真野 俊樹 氏 (多摩大学)
セミナー開催にあたって
外国人患者受入れ医療認証制度(JMIP)が平成24年より開始され、外国人患者に向けた医療環境の整備が開始された。訪日旅行客も2000万人を超え、在住外国人も増えていく中、受入環境の整備は急務の課題の1つである。受入に当たり、言語など多くの課題があるが、「院内における言葉の壁」を取り除くために、政府、医師会、自治体、病院、企業の取組みについて関心・注目が高まっている。
(2)基調講演「外国人患者受入れ体制に関する厚生労働省の取組み」
テーマ :基調講演「外国人患者受入れ体制に関する厚生労働省の取組み」
講演 :永松 聡一郎 氏(厚生労働省医政局 総務課 医療国際展開推進室 室長補佐)
<内容>
政府、厚生労働省の取組み
観光立国の実現のためには、外国人が安心・安全に日本の医療サービスを受けられる環境整備が不可欠である。2020年までに外国人患者受入態勢が整備された医療機関を100箇所整備することを目標に、整備・認証・周知の3点にこれまで注力してきた。今年度は上記に加え、電話通訳サービスの導入に関する補助、医療通訳養成講座の支援に関する環境整備を予定している。
医療機関の認証制度および周知
現在、外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)取得の病院は23病院あり、説明会の開催・認証医療機関見学ツアー・各種告知活動の支援等を実施し、更なる周知・浸透を図る。JMIPの他、訪日外国人旅行者受入医療機関リスト(MIL)、ジャパンインターナショナルホスピタルズ、訪日外国人旅行者受入可能な医療機関のリストなど医療機関の情報を各関連機関にて公表している。
(3)講演「医療通訳の現状」
テーマ :医療通訳の現状
ご講演 :吉川 健一(株式会社ブリックス 代表取締役社長)
<内容>
日本の多言語対応の現状について
観光立国に向け、政府は「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」を設定。第2回本会議にて新たな目標が設定され、地方部での外国人延べ宿泊者数を2020年までに7000万人泊と定めた。DMOも広域、地域連携、地域にて既に120以上の法人が設立され、今後訪日旅行者は今まで無縁であった地方にもやってくると見込まれる一方で日本における通訳者数は最大でも5万人を超えず、今後通訳が足りなくなる可能性がある。
医療分野における多言語対応の種類とニーズについて
人工知能を用いた多言語対応の研究が近年進んでおり、人による通訳と人工知能を用いた通訳、「ハイブリット通訳」が可能になった。遠くない未来で現在人による通訳の一部をAIで賄える可能性がある。しかし医療分野においてはAIの効力が及ぶ対応範囲は非常に限定的であり、最も友好的な施策は現場での医療通訳といえる。現場での人による通訳の課題は人的リソース確保、研修である。対応範囲を広げるという点では電話などによる遠隔通訳が有効であるといえる。
(4)講演「国際医療供給体制の歪みとメディカルツーリズムそして外国人旅行者医療への対応」
テーマ : 国際医療供給体制の歪みとメディカルツーリズムそして外国人旅行者医療への対応
ご講演 :原茂 順一 氏 (聖路加国際病院医事課国際係予防医療推進室 マネージャー)
<内容>
国際医療供給体制の歪みとメディカルツーリズム
本来「医療」は地産地消であるべきであるが、医療水準の差異や手術までの待機時間、高額な医療費、医師不足など各国で問題を抱えており、国際的医療供給体制に歪みが生じている。メディカルツーリズムは産業化し、ごく一部の最先端医療を除いては、一定以上の水準の医療を世界の多くの国で受診することが可能となり、医療のコモディティ化(品質で差別化が困難なサービス)が進んでいる。国際競争下の中で日本は強みを生かした医療サービスの展開が必要となる。
外国人旅行者医療への対応 聖路加国際病院の事例
聖路加国際病院では2017年2月に2242人の外国人患者が訪れ、その比率は4.2%を占めた。その中で国際係では通訳・翻訳、予約調整や保険会社との交渉等の業務に当たっているが、通訳増加によるスタッフの疲弊や希少言語への対応体制など課題があり、対応策と1つとしてアウトソーシングも検討、内製化のメリット・デメリットを踏まえた対策を講じている。
(5)講演「外国人患者受入れにおける課題と解決策」
テーマ : 外国人患者受入れにおける課題と解決策
ご講演 :近藤 太郎 氏(公益社団法人 東京都医師会 副会長)
<内容>
外国人に対する医療と課題について
世界で最も売れていると言われている日本のガイドブックには「クリニックより大学病院や大病院での治療を推奨する」と記載されており、先進国として打開していく必要がある。訪日・訪都外国人旅行者数は増加し、平成27年度には一日当たり平均して約1300人が都内で医療を受けていたことになる。一方で受入可能な医療機関は少なく、軽症でも多くが大学病院、大病院の救急外来を受診し、病院は疲弊状態となっている。その他にも多言語対応や未収金等の課題がある。
外国人患者受入の解決策とは
東京都保健医療計画において、外国人医療を事業化し、関連するすべての団体がフレキシブルに対応・連携できる仕組みづくりが必要であると定義した。医師会や薬剤師会、東京都病院協会、東京都と連携し、受診時の医療事務作業から軽症患者の地域医療基幹での受入体制の整備など課題に対して注力している。地域の医療機関での軽症患者の受入については、支援研修や多言語説明の資料、通訳サービスなど官民連携して体制を整えており、実務に役立つ制度・資料の紹介を行った。